気がつくと雨が降っていた
秋も深まって、ゾクッとするくらい冷たい風がうなじを通り抜ける。
営業の仕事帰り、三本もの保険をまとめて上機嫌だったのに降りしきる雨が全部を帳消しにした。
矢倉海斗は忌々しげにため息をつく。
仕事というくくりから抜けた今、俺の顔は明らかに仏頂面だろう。
構うもんか、ここにはクライアントも上司もいないんだからな。
最寄りのミニストップで暖かいコーヒーを飲みながら、さて傘を買ったものか考える。
ケチケチすんなよ、と心の中の自分が言い、百均でも売ってる傘を五百円で買うのか?ともう一人が問う。
実に、…セコイ選択肢。
と、不意に雨が銀色の糸のように細くなった。
やみかけているならば…。
海斗はコーヒーを慌ただしく飲み、投げるようにゴミ箱に突っ込んだ後、駆け出した。
家は走れば五分だ。
暗闇の中、黒いコートで道路を渡る。
しかもたいした確認もせずに。
そんな愚行を犯したのは一重に雨のせいだ、と 今なら思う。
急ブレーキの音がして…暗転。
世界は、紛れもない暗闇へと変化した。
ダーク・イン・ザ・ナイト