俺が力任せに引っ張ると黒川さんはバランスを崩して
俺にもたれかかって来た。
とたん独特のアルコールの匂いが鼻をつく。
「うわ、酒臭っ。」
「はぁ?お前に言われたくねぇ」
「え、俺呑んでませんけど…」
「嘘吐け。いただろ原島と」
いや、いたけど俺今日ジュースしか呑んでないし…
て…
「…何で知ってるんですか?」
「俺もいたからな。カウンターに」
……………
「え?…誰と」
「独り。だからよく聴こえてたぜお前の話は」
…
やべぇ。普通に。
『もっと周りをよく見ろよ』
原島…アイツ気付いてたな。
どうりでやたら所長の肩をもつハズだ。
「ごめんなさい。」
「何だ。謝るような悪口でも言ってたのか?」
「いや…言っ…たかも、しれないです。」
この試す様な言い回し。すげぇ怖い。
何言ったっけ?何かやばい事言ってないっけ?
…分かんない。あんま頭使って喋ってなかったし。
「もういい、帰るわ」
そう言っておぼつかない足で歩こうとする。
何か見てて痛々しい程歩けてないんだけど、
さっき地面に座ってたし…もしかしてだいぶ呑んでたんじゃ?
「え?所長、そっち駅ですけど」
「だから?」
「(…いやいやいや)もう終電終わってますよ?」
「…は?」
「!、危な…ッ」
またバランスを崩した所長をマンガみたいには助けられなかった。
こけた。それも正面から。
あぁ…痛そう。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけねぇだろ殺すぞ」
えぇー。すごいなぁこの人やっぱり
「家は何処なんですか?」
俺は所長を抱きあげながら
返答に口があんぐりした。
「めちゃ…めちゃ遠くないすか?」
何とこの人は毎朝約2時間もかけて会社まで来ていたらしい。
なにゆえに…
俺なんて徒歩でも20分あれば帰れる距離なのに…
よく面接が通ったもんだ。