額におずおずと当てられた布らしきものが、跳ねた相手からのものだと認識するのに大分かかった。
海斗は僅かに車に引っ掛かっただけらしい…幸いどこも骨は折れておらず、転がった時に出来た沢山の打ち身くらいか。
軽い脳震盪があとを引いているだけだろう。
「君は…?」
大学生くらいの青年が、ビクッと怯えたように体を震わせる。
「あ、俺は、宮前簓です」
こんな状況でも笑いがでた
海斗は痛みにひきつりつつ微笑した。
「違う、怪我はない?」
彼…ササラ?君は何度も頷いた。
「はい、あの、ちょっと頭を打っただけ…です、あ、そ、それより警察と救急車呼ばないと」
ようやく二人ともハッキリとものを考えられるようになってきているようだ。
「かけますね、…あれ?…圏外?そんな…」
簓は慌てて携帯を振った。意味がないことはわかっている。
かたやそれを見た海斗も携帯を取りだし…「圏外」の文字に驚いた。
「…おかしいな…」
簓を伺うと余りにも不安げに震えているので可哀想になる。
海斗はいま来たミニストップに彼を誘導した。
そこからなら電話もできようし、警察がくるまで落ち着ける。