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さよならは五分前 8

にゃんこ  2010-11-23投稿
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「そんなんで寒くない?」
簓は言われて初めて気づいた。上着を車に忘れてきたこと。

「だ…いじょうぶです」

大丈夫なわけない。唇も肌も青ざめて死人みたいだ。こんなときじゃなければ、休んで寝ていろとすすめる筈だ。
だが、今は…。

海斗はコートを脱ぎ、手渡した。
「汚れてるけどな」

簓が首を降るのを、有無を言わさず羽織らせる。

「これじゃあどっちが跳ねられたんだかわかりゃしないな」

苦笑まじりに呟く。
袖を通した簓は、その暖かさに感謝した。
あんなに失礼なことを言ったのに気にする風もない隣の大人…。
本当に自分と比べたら、なんてしっかりしてるんだろう。

誰も通らない、街灯だけが白々と照らす道。

時折会話しながら、ゆっくり歩く。

「ササラってどう書く?」
「えと、こう…」

空中に指で書いて、海斗に全く伝わらなくて、笑ったりもした。
圏外なままの携帯は取り出さず…落ちていた枝で土に名前を刻む。

二人とも少しでも不安を寄せ付けないようにしていた
限界があることに気づいてはいたけれど。

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