「あ、あそこに明かりついた家が…」
簓の指し示す先に、こぢんまりした民家。
「…考えてみりゃ俺の家に行っても良かったんだ」
そう思いながらも、海斗の本心は違っていた。
人。
動いている人間を見たかったのだ。
羽虫のように光に導かれながら、恐れていた。
簓はホッとしたように、確かな足取りで民家に向かう
海斗の心臓が狂ったように鳴り始めた。
大丈夫、大丈夫だ。
誰かがいる。
いるに決まってる。
「矢倉さん、鳴らしますよ…?」
インターホンに指を乗せたまま怪訝な顔で聞いてくる簓に頷いた。
俺は一体、何を恐れてるんだ!
三輪車や枯れかけた鉢植えやら、汚れた小人やらが佇んでいる玄関先。
小さなプラスチックのバットが立て掛けてある。
明らかに子供がいる家庭らしい。
簓がチャイムを鳴らす…。
しばらく待つ。
応答なし。
もう一度…さらに、もう一度…。
痺れを切らし、海斗はドアを乱暴に叩いた。
「すみません!誰かいませんか?」
ノブを掴み捻る…と他愛なくそれは開いてしまった。
二人は顔を見合わせた。
海斗は、乾いた唇をしめらせた。
どうする…。