夢なき夜を越え、起きた時
カーテン越しには変わらない闇が。
星も月もない漆黒が我が物顔で横たわっている空。
腕の中で優しげな吐息…簓を抱いたまま寝ていたことを思いだし海斗は微笑んだ
事態は好転などなく、変わらないことは明確。
それでもなぜだか暖かさが絶望を和らげた。
長い睫毛、おっとりと眠る顔はまだほんの子供みたいだ。
そっと濃い茶の前髪に触れ白い頬を指先で撫で…少し眉間に皺が寄ったのを見て更に唇を上げた。
おいおい、男だぞ、こいつは…
沸き上がる可愛くて堪らないというある意味理不尽な感情に翻弄される。
時間に閉じ込められた空間はどこか…いや、全て現実感が乏しくリアルじゃない
なら…別に…
ふっと、簓の唇に…。
「ん…あ…さですか…」
!!!!!
「ええ?あ、あ〜…」
無造作に目蓋を開け、目の前に海斗のドアップを目の当たりにした簓は寝ぼけまなこをしばたたいた。
「矢倉さん、近いっスね」
その第一声に不覚にも笑えてた海斗は簓の頭をポンポン叩いた。
「何ですか」
きょとんとしてる簓。
海斗はこの一瞬だけ、不安を忘れて笑っていた。