美姫は駅前のスーパーで買い物を済ませ、立体駐車場に停めた車に乗り込もうとしていた。
その前を一台のワンボックスが通過する。
あれ?
あれは確かヒロキの・・
その車は偶然にも半周先で停まった。
助手席のカイトは、ブスッとしたまま、マンションからここまでひと言も喋らなかった。
不安な涼子は恐る恐る助手席に問う。
「黙ってて・・くれますよね?」
カイトは眉間に皺を寄せた。
「ヤってねえからな。・・どうかな」
うろたえる涼子はとりすがる。
「そんな!」
自分は一度は覚悟した。
行動に移さなかったのは、言わばカイトの勝手なのだ。
決死の覚悟なのだ。そう何度もできるものではない。
ところがカイトはこともなげに言った。
「また連絡するよ」
応じるしかない涼子は、渋々アドレスを教えた。
「じゃあ・・」
ドアを閉めたカイトは、階下へ降りようと歩いた。
仁王立ちの美姫がいた。
睨んでいる。
車から出てきたのを見ていたようだった。
「・・・乗れよ・・」
カイトは助手席に回った。