カイトは悩ましく真剣な目で睨んだまま玄関まで入ってドアを閉めた。
「おばさん、やっぱヤらせてよ」
抱きつくカイト!
「え?や!止めて」
「何でだよ、頼むよ!」
むしゃぶりついてくる少年に、涼子は心底うろたえた。
「もうすぐあの子が帰って来ます!お願いだから今は勘弁して!」
カイトは聞かなかった!
抱きついたまま涼子にキスし、体をグイグイ擦り付けてくる!
「あう、おばさん、おばさぁん!お願いだから、お願いだからぁ」
泣き出しそうな声で頬擦りするカイトは、さっきの彼とは全然違っていた。
野獣が甘えているようだった。
涼子はその頭をゆっくり撫でてやった。
「落ち着いて・・・落ち着いて・・」
自分にもそう言い聞かせるようにして、カイトをとりあえず鎮めた。
涼子は、時計を見た。
ヒロキがここで帰って来たら・・・
本当のことを打ち明けるにはもう遅い。
自分はすでにこの子と、とんでもない約束をしてしまっているのだ・・・
息子がゆすられたり、苛められたりされないように一身に罪を受け止めようとする母の気持ちが、災いしたのかも知れない。