「簓」
顔をあげない。
映らないテレビを見ている
「おい」
簓は微動だにしない。
海斗は苛立ちが爪先からジリジリと上がっていくのを感じていた。
「こっちみろ」
細い肩。白い肌。
この世界でより痛々しいその身体。
それを汚したのが自分だと気づいて痺れるような罪悪感が心を切り裂いた。
「ごめん」
青白い顔には表情がない。ただ、ゆっくりした動作ではじめて海斗を視線に据えた。
それだけで喜びが沸き上がった。
それと同時に苛立ちも。
「何をしてほしい?何でもするよ。何をしたら赦してくれる?」
一瞬、瞳に煌めきが戻ったかに見え海斗の拳に力がこもった。
が、その目は何事もなかったかのようにフイッと逸らされた。
身の内に震えが走り、瞬時に怒りへと…理不尽な怒りへと変わった。
「出ていけ」
その言葉は押し出された瞬間、鉛のように胸へと落ちた。
簓は静かに立ち上がり、玄関へと歩き出した。
海斗は、思わず手を伸ばしその肩を掴んだ。
「ささ…」
「触るな!」
勢いよく振り払われた手。その痛みより痛かったもの
簓の頬に伝う涙。
簓は袖で顔を拭って駆け出した。