文字通り足は棒になり、頑なにこれ以上動くのを拒んだ。
海斗は引きずるように歩いて…
アパートの前に戻った時、そのドアの横にうずくまる簓を見つけた。
「…簓」
声に顔をあげ、驚いたような顔をしてみせた簓を
海斗はいま出来る精一杯の力で抱き締めた。
座り込んだ形で、触れるのも怖いように抱き締めた。
疲れてて、幻を見てる気さえする。
が、伝わる手応えは本物で鼻先をくすぐる髪も、やっぱり本物で。
「簓」
額と額を合わせて呟く。
「うん」
囁くように小さな声で、簓が答えた。
答えた…。
「行くとこ、ないんだよ。悔しいけど俺…ここしか…ないんだ」
しゃくりあげながら、海斗の服を掴む。
「あんなことされて、どうしたらいいかわかるわけないじゃん。どんな顔したらいいの?」
「好きだ」
目を丸くして、その言葉を飲み込んだ簓は、ちょっと皮肉な目で笑った。
「繋がってないよ、話」
「好きなんだ」
今度は、戸惑い。
「矢倉さん、俺は…」
「お前が俺を嫌いでも男でも好きだ。仕方がないし離さない」
今度は紛れもなく
簓は声をあげて笑った。 太陽みたいに。