だから…。
その言葉は宙に浮き、二人の間を漂った。
首筋を優しく撫でていた指に力が僅かにこもり引き寄せられていく。
優しい目だ、と間近に見つめながら簓は思った。
端正と言ってもいい顔なのに、どこかユーモアが漂う唇と瞳がもしかしたら外見を損なっているのかも。
でも、完璧な顔より、好きだ。
引き寄せられていく…その目に映る自分自身が見える
取り立てて特徴のない、個性のない、どうってことない自分なのに。
海斗の目の中にいる自分は少し違って見える…。
「キスしたい」
言わずにしろよ。
なんて思う自分はおかしいんだろうな…。
「なんかね、心臓痛い」
そっと、海斗の唇が頬に触れた瞬間血液が沸騰した。
あんなことされたのに。
いまさら頬へのキスで動揺するなんて。
頬に刻んだ口づけは逸れて…いやむしろ本来の位置へ…唇へ。
二人は柔らかな口づけを交わし合った。
言葉はこれ以上いらず、ただそこにいた。
簓がいること。
海斗がいること。
外には変わらない闇があっても、二人の間には太陽がある。
現実世界にさえなかった光があった。
それは恋だ。
それが…恋だ。