地面は揺れ、ぱっくりと穴を開けた。
二人は抱き締めあったまま底へ底へと墜ちていく。
不思議の国のアリスのようにまっすぐに。
墜ちているにも関わらず、その感覚は全くない。
宇宙空間で浮いているようだ。
このまま死ぬのか?
それとも今度はひたすら落ち続けるのか?
海斗はしっかりと簓を抱いたまま、目を閉じた。
なんにせよ、二人一緒だ。
死ぬにしても。
「海斗」
ノイズが収まった無音の世界で簓の声が鼓膜を震わせた。
簓は海斗をじっと見つめていた。
その目は不安そうであっても怯えてはいない。
「…海斗…なんだか不思議だね、もう、怖くないんだ…落ちてるんだよね、俺たち…」
「ああ」
あの時を止めた10時10分の世界は崩壊した。
有無を言わさない圧倒的な力で。こちらの感情や都合など粉微塵にする非情な力で。
夢の中ような不可思議な感覚だ。
恐怖はない。
現実感がないからかもしれない。
海斗は優しい手つきで簓の頬を撫でた。
「どこに行っても…たとえこのまま死んでもお前となら、な」
簓は微笑んだ。
「俺、生まれて良かった」
海斗は胸がつまった。
俺もだよ、簓。