暗黒。
目が覚めるとそこはまさに闇。
「……ここは」
瞬きをしてみた。色は変わらない。いや、そもそも私の目は開いているのだろうか。
「目が覚めたんだね」
聞こえてきたバリトンの声。いい声だ、なんて思う私はどこかのネジが抜けているに違いない。
「誰?」
「僕は君を愛する人。そして、君に愛された人」
「知らない」
そっと首筋に触れた何か。確かめようと手を伸ばす――つもりだったのだが動かない。ジャラジャラと音を立てるだけ。なるほど、
「私を縛ってるんだ」
「そうだよ」
そうじゃないと逃げるでしょ、と言い放った見知らぬ彼に、意外にも怒りは感じなかった。
「拉致? 監禁?」
「両方かな」
なるほど。ふむふむ。へー。何だか人事のように感じる。誘拐なんてテレビでしか見たことがないから。
「私なんかさらって楽しい?」
「うん。だって僕は君を愛してるからね」
「それが分からない。だって私は貴方を知らないから」
「君は知ってるはずだよ」
「知らないってば。声も名前も顔も、何も知らない。教えてよ」
「いつか思い出す」
「今話してくれないの?」
男はそれきり話さなくなった。何か言ってはいけないことだったのだろうか。無音の世界で私は考える。ふと身体に熱を感じた。抱きしめられている?
「何?」
「思い出してよ」
「何を?」
「思い出させてあげる」
「だから何を?」
身体が反転し、唇に何かが触れた。それはさっき首筋に触れたものと同じだ。何が触れたのか、今分かった。
「……キス」
「うん」
もう一度深いキスをされる。歯列を割って入り、舌を絡ませる。
「ん……」
気持ち悪くて顔をしかめるが、男はやめない。そのうち服のボタンに手がかかり、しかし抵抗することは出来ない。
「やめてよ」
「やめない」
ついに服の中に手が入り、ブラが外される。こんな日に限ってフロントホックだったのだ。
「やめっ」
またキスで口を塞がれる。上服は脱がされないまま、服の上から胸を揉まれる。
「っん!」
犯される? レイプ?
そう理解した途端、冷静だった気持ちは消え失せた。