「だけどねリルナちゃん。
自分の出来ることが増えたわけではないのよ?
その人たちに喜んでもらえたとしても、
また別のお客さんに迷惑をかけて、
裏切ってしまうかもしれない。
あなたは、それでいいの?」
言い返そうとしたが、
昨日醜態を晒しておいて、
それでもやりますとは言えなかった。
「いいコね」
「マ、マキさん……。初対面で失礼なことを…お尋ねしてもいいですか?」
「?」
「マキさんは……今日来られる三百人のお客さんを…満足させられる自信はあるんですか?」
マキの顔つきが少し真剣になって、
大人っぽい表情に変わった。
「そうね。無い……って言ったら、
あなたはどうする?」
「!わ、私にやらせて下さい!」
マキは首を振った。
「リルナちゃん。
この店の、一日一人の従業員原則は素晴らしいことなの。
何故だか分かる?
自分に代わりがいないって…、
お客さんたちを満足させることができるのは、自分¨だけ¨なんだって…、
肌で感じ取ることが出来るからよ。
リルナちゃんの年齢で、
それに気付けたのは凄いことよ。
人の仕事を代わりに引き受けるのも、本当は反則。
だけどね、
仕事中に気を失ってしまえば、
それは仕事を放棄したと同じなのよ?
それは…キツい言い方だけれど、
問題外なの」
「…!!!」
「少しでも失敗する可能性のある人に、この仕事は任せられない。
さっきの答えを言うわ。
自信ならあります。
失敗する可能性なんて無いわ。
私はNo.1をもらった時から今日まで、
一度も失敗なんてしなかったわ。
これからもそう…。
私は、この店を背負って立っているから」
席に座ってグラスを傾け、
静かに以上を述べたマキは、
目線をリルナからグラスに戻した。