「いつもみたいに試合には来ないだろって言ったら、父親がつっかかってきて…。
お前なんか応援してくれる人なんかいないだろうって言われたから…
…つい、頭にきて………」
「私に彼女の役を…!?」
「藍原しかいないんだ…!」
お互いに顔は真っ赤だったが、
気にはならなかった。
リルナにしてみれば、どうせ見に行く試合なのだから、断ろうにも断れない。
「私で……いいの?」
「藍原しかいないんだよ、頼む…」
「他には……誰かいないの?」
「…………嫌か?」
蹴人の顔が不安で満ちた。
リルナはたまらずに首を振った。
「私で良ければ…」
「ありがとう……!両親に話しかけられたりしたらで良いんだ。
その時は…頼む…」
「意外だな〜…。久波くんて、もっと真面目だと思ってた」
「ヘンな事に巻き込んでごめん…」
「ううん。久波くんの彼女……のフリだもん。面白いよ」
(久波くんの…………ばか!!!)
別れ際に蹴人が約束してくれた『お礼』と、見せてくれた笑顔で、リルナの気持ちは、たちまち晴れやかになった。
蹴人とわかれて、家路に着くリルナはふと思った。
(結局、久波くんに笑顔にしてもらってる……)
蹴人に対して抱いている気持ちは、抑えきれず表情に出始めている。
――もう、隠し切れていないのかもしれない…。
ならばいっそ、全てを彼に打ち明けて……。
『店』のことを…?
自分がしてきたことを…?
自分が棄てられていたことを…?
リルナは瞼をぎゅっと瞑った。
再び覚悟の決まった瞳には、
少しだけ涙が滲んでいた。