「おい、起きろよ。藍原、藍原」
「…?あれ、久波くん…?」
「随分疲れてたんだな?ずっと眠ってたぞ?」
「……?うん…」
「どうしたんだ?お前………そのお腹…」
「?……!!!いやっ…!違う、違うの!!いやぁぁあ!!!これは…!!いや、いやぁぁあああ!!!!」
「――――――!!!!!」
リルナが目を醒ますと、そこは見慣れた自分の部屋だった。
夢とは違い、お腹は全く大きくなどなっていなかった。
ほっとしかけたが、「あの男」がしたことが本当ならば、夢の通りになる。
立ち上がってマスターの部屋に行こうとしたが、体は完全に腑抜けとなって力は全く入らなかった。
汗だくのまま、リルナは再び布団に上体を寝かせた。
(何日経ったのかな………。
どうなったんだろ…………。
携帯、メール見なきゃ……。
きっと久波くんの試合、決まってる…。
行かなきゃ……。
行かな…)
その時、マキが部屋に入ってきた。
どうやら体を拭くタオルとお湯の入った洗面器を持ってきたらしい。
「リルナちゃん!!気が付いたの!?」
「……………………!!…………………?……………!!!」
リルナは全身を冷や汗が流れていくのが分かった。
声が出なくなっていた。
「?リルナちゃん?」
伝えたいことが伝えられないもどかしさや、情けなさ、悔しさ、いろいろな想いがリルナの胸に去来して、大粒の涙となって流れていた。
「お医者様は一時的なショック症状だから、無理するなって…。お腹の方も妊娠の心配は無いみたいヨ…」
「……………」
リルナはこくんと頷き、
『ありがとう』と口を動かした。
声が出るはずの喉からは、
微かに空気が漏れる音がしただけだった。
追い討ちをかけるように、
携帯電話には、蹴人からのメールが届いていた。
『例の試合、来週の土曜日に決まった。
両親のこととか、そういうの抜きでお前には見にきてもらいたい。
待ってる』
携帯電話を握りしめ、リルナは声もあげれずに泣いた。