蹴人の父親らしき人物は、明らかにリルナを見つめていた。
試合が休憩に入ると、その男はリルナに近づき、話しかけてきた。
「突然、申し訳ない。あなたはもしかしたら、間違いなら大変失礼なんだが……翔梧(ショウゴ)の…薙(ナギ)翔梧の娘さんでは?」
リルナに話しかけているのだろうが、
三人共に見覚えの無い名前だった。
「このコは藍原リルナって言います。人違いでは?」
「失礼ですけどどちら様ですか?」
「あ、ああ、申し訳ない。久波蹴人の父です。そうでしたか……藍原………」
リルナの名前に引っ掛かったのか、
難しい顔をしながら、
男は戻っていった。
「でも金髪に青い瞳で…人間違いってどういうわけ??」
「よっぽど似てるハーフの娘さんが知り合いにいるんだよ、きっと」
(……薙…翔梧…?)
蹴人の彼女を見つける目付きではなかった。
最初から、あの男性は難しい顔をしてこちらを見ていた。
―――人違いじゃなかったら………――
リルナの不安を他所に、試合は後半に進むにつれてどんどん蹴人たちが点を決めていた。
「これなら余裕だね〜!」
リルナも安堵の表情だった。
ダメ押しのブザービーターが決まり、試合は蹴人たちが圧勝し終了となった。
その後の試合も競り勝ち、次週の決勝リーグ進出を決めた蹴人たちを、リルナは会場外で待っていた。
「ん〜〜〜。終わったー!勝った勝った!
圧勝だったね!」
リルナは笑顔で頷いた。
「ったく、しゃべらなくっても可愛いんだからアンタは…!」
リルナの頬っぺたを、ミナが引っ張っていると、蹴人たちが出てきた。
「藍原…待っててくれたのか!」
「やっぱり久波のツレか〜!」
「お前集中できてたのかぁ?」
「か、勝てたんだから良いだろ!お前らはあっちだよな!じゃあまた明日な!っ………行こう、藍原…っと」
友人二人はニヤニヤと蹴人とリルナを見ていた。
「………あ、おれ、こいつと少し話があって…ダメか?」
「ぜ〜んぜん、ね?」
「お幸せに〜〜。リル、メール楽しみにしてるよ!」
バスケ部員らにも見送られながら、
蹴人の自転車で二人は帰路についた。