二日後、蹴人と待ち合わせてからリルナは久波家へと向かった。
「ああ…。いらっしゃい」
「藍原リルナさん。きちんと自分の意志で来てもらったから」
蹴人の家には意外なことに、彼が少年時代にやらされていたサッカーの写真や賞状、トロフィーが多く飾られていた。
「……。これもね、藍原さんに関係していることなんだ…」
父親は落ち込んだ声だった。
「大会の日に言った薙翔梧という人物は、
僕の友人だった人の名前だ。
僕らは海外にサッカーを学びに短期留学をしていた。
楽しくて楽しくて、一生ここで暮らしたいと思った。
翔梧は、僕以上にそう思っただろう。
彼は後に婚約者になる女性と出会ったからだ。」
薙翔梧の話はリルナにはどう関係あるのかは分からなかったが、
異様な胸の高鳴りがあるのも事実だった。
「レオナ・ルーリア。僕らが毎朝通っていたカフェの若い娘だった。
彼女は………彼女が、藍原さんの…母親だ」
蹴人の父親は、落ち込んでいるどころか、
震えていた。
蹴人もまた、リルナが仮親の元にいる事実に驚いていた。
「君に本当の両親の記憶が無いと知っていることが、僕の話の裏付けになっているだろう？……父親は、薙翔梧…。
彼は、日本にレオナを呼んで、結婚した。
周囲の反対なんて、あいつは気にはしなかった。気持ちのいい、本当に気持ちのいい男だった」
蹴人の父親は滲んだ涙を少し拭い、
話を続けた。
「僕たちには日本にもサッカー仲間がいた。藍原龍弥（アイハラリュウヤ）。
………分かるね？」
マスターの本名だった。
いや、マスターはこの名前を隠している。
小さい頃に、たまたま馴染み客がマスターをそう呼んでいたことを覚えていた。
「彼が経営するバーで、僕たち四人はいつも集まって騒いでいた。
ある事件があるまでは…」
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