「……君がその店で働いた……という記録は無かった。
調べたのはつい昨日だった…。
龍弥にも取調を受けてもらった」
リルナは驚いて、反論しようとしたが、
声にはならなかった。
「……分かる。分かるよ。
………龍弥からも君への気持ちが痛いほど伝わってきた…。
それに……僕だって君の人生が変わってしまうのは見たくない…!」
リルナは震える体を必死に抑え、
首を横に振った。
「リルナ…………」
「ここは取調室じゃない……。
良ければ私は出ていこう。
だからせめて息子には、
蹴人には本当のことを話してくれ」
リルナは蹴人の父親に、一つだけ尋ねた。
メール作成画面には、こう書かれていた。
『マスターは、いつ逮捕されますか?』
「………………そうだな…。
龍弥は今、警察と店内の捜索に立ち会ってもらっている…。
早ければ夕方までには片付いてしまう……
」
「そんな…!親父!リルナと、最後に会わせてもあげられないのか!?」
「………」
「……蹴人、残念だが…」
「リルナ来い!!!
親父!!
二人乗りは見過ごせよ!!!」
蹴人はリルナの腕をとると玄関を飛び出した。
「店ってどっちだ!?…分かった!掴まってろ!!!」
自転車から振り落とされそうな速度で、
景色はリルナの慣れ親しんだ場所へと移って行く。
「………こんなことになってごめん…本当にごめん!!!でも、リルナがどういう思いで生きてきたか、やっと分かってきたんだ!!そのマスターって人に会わなきゃ、リルナは一生後悔する!!」
蹴人の背中に額をこすらせて、
リルナは精一杯の感謝を現した。
(マスター…!!!
お願いまだ行かないで…!!
これが私の大好きな人なの…!
見てよマスター……!!
こんなに……こんなに…カッコいいんだよ………マスター………!!)
リルナの涙を風で飛ばしながら、
自転車は夕暮れの店に辿り着いた。