「マスターは、あなたが久波くんの家に行くと決めた日から、あなたに関する全ての記録や生活用品なんかを捨てて、カモフラージュしたわ……。
一点の抜け目もない…」
マキが温かいココアを二人に淹れてくれたおかげで、
二人はなんとか落ち着きを取り戻した。
「……だから、金輪際…面会とか、マスターには一切接触は出来ないってことは、分かるわね?」
「…はいっ!!」
「リルナ…」
リルナの表情は落ち込んではいなかったが、涙が止まる気配はなかった。
「さ、可愛いナイトさん。あとはあなたに任せるからね」
マキもまた、止まらない涙を拭いながらリルナの部屋から出て行った。
「リルナ……ほら、あったかいし美味しいぞ、ココア」
「……訊かないんだね。この店のこととか…私のこと…」
ココアを一口啜って、蹴人は答えた。
「………訊きたくないって言ったら嘘になる。でも、リルナが話したくならなきゃ、聞きたくないかな」
「………この店は、大勢の男の人を集めて、一人の女性従業員を……犯す場所なの。
私は………お父さんの話の通り、捨てられていて…マスターに……育てられたの。
物心ついて、中学生くらいの頃には、自分から舞台に上がってたの」
蹴人は真剣にリルナを見つめている。
「…ヒいた、よね。……声が…出なくなったのもそのせいだった……。
お客さんの一人が……避妊具を着けなかったの…。
そのまま…されて………」
蹴人はリルナを抱き締めた。
「今までよく頑張ったな」
「………やめてよ。
こんな……。私…汚いんだよ!!
私………男の人のとか…おしっことか…いっぱい浴びてるんだよ……!!!
」
「分かってる……分かってるから」
「分かってない……!!!
男の人の…とか…くわえたり…!!
お尻も………あ…あそこも……!!
みんな、みんな、汚いんだよ…!!!」
リルナの唇に蹴人の唇が重なった。
「………!!」
「リルナ、汚いなんて言葉……マスターは喜ばないと思う」
「!!…………久波くんに…」
「分かるわけない…。でもな、リルナがそうやって、自分をおとしめてもな、俺はずっとお前が好きだから……関係無いよ」
「……!!!蹴……人…」
「リルナ…」
蹴人はリルナの涙を拭き取り、
改めてキスをした。