俺は拳を強く握り、このお綺麗な顔に叩き込んでやりたい気持ちを押さえ込んでいた。
庄野は微笑んで、長い指をさりげなく俺の肩に強く食い込ませる。
獲物を捉えた獣みたいだ。その左手には結婚指輪がはめられていた。
俺は痛みに顔を歪めないよう細心の注意を払って呟いた。
「庄野先生、結婚してんですね」
庄野は片眉を上げた。
それがどうした?ってわけだ。
「有名塾の社長の娘でね…金だけはある俗物さ。
役には立ってくれるがね」
決して他には言わないであろう本音を、俺に言うのは煽っているからだ。
コイツに対しての俺の反感を面白がっている。
「俺には関係ないけど。…もう離して貰えますか」
これ以上触れていたら穢れる気さえする。
水と油だ。
俺とコイツは。
「…あの猫はどんな風に鳴いたんだい?いや、君が鳴かせたのかな…」
耳元でそっと囁かれた。
拳は、あっけなく振り上げられ…美しい鼻筋に叩き込まれる寸前に、後ろから止められた。
振り向いて、それが連理だと気づいた。
「何してんの」
厳しい声だ。
俺は見なくても解っていた
庄野は笑ってる。
心のなかで。