「藤原です、あ、藤原、颯斗(ハヤト)です。よろしくお願いいたします」
俺は自分に順番が回ると、途端にあがってしまった。
泉堂…さんの視線を感じると舌が縺れてしまう。
新入社員は俺を入れて3人だ。
俺と泉堂さんは営業課。
最後に自己紹介しているのは川田 茜という一番若い短大卒の女の子。
事務課配属だ。
若干、甘えた声で紹介を終えた彼女も魅せられた様に泉堂さんを凝視している。
見渡せば、二十人ほどの社員たちの中で…特に女子社員は殆ど彼に見惚れていた
当然だ、なぜ、楽器を売るような、地味な営業を選んだのか謎な存在だ。
彼くらい際立つ魅力があるなら、モデルでも成功するだろうに。
明らかに一人、浮いている
ただその目は、そういった華やかな舞台にそぐわない静けさで満たされていた。
黒髪は艶やかに真っ直ぐ伸びて耳にかけられている。
弓なりに弧を描く眉、切れ長な目には濃い睫毛。
通った鼻筋、薄い唇。
日本人離れした長い首、細い指先は繊細で丁寧に仕上げた硝子細工みたい。
おろしたてのスーツ、多分安いヤツなのに上等に見えるくらい良く似合う。
世離れしたような浮遊感が彼にはあった。