結局、説明を拒んで、わたしは嫌々ながら連れて来られた。
不思議と悪い気はしなかったし、
そこが、オートロック、自動ドアの高級マンションでなければ我に返ることもなかったと思った。
「うそ…。ねぇ、本当にダメだよ…。わたしなんか入れない…」
「だいじょぶ。家に入るのに条件なんかあるわけないだろ?さぁ」
こんなところに一人暮らししているのだろうか。
「701号室。さ、入って」
住人だけがロックを解除できる玄関ドアを抜けると、
ロビーの様なスペースが設けられていた。おじいさんが受付に座っていた。
「このコ、今日からウチに出入り自由だからさ!後でパスよろしくっ!」
「左様でございますか。了解しました」
受付のおじいさんは微笑み、
席を立った。
「え…あの」
「いいから、ほら。エレベーター乗って」
まだ互いに名乗ってもいないまま、
わたし達はだんだん互いに抵抗が無くなってきていた。
―不思議…。―
本当に不思議だった。
今まで名乗らず、まともな自己紹介もせず、話せた人はいなかった。
普通、誰もがそういう『もの』だと認識しているから。
この人にとって、
『人間』って、
そこまで簡単に信頼できるものなんだ。
「着いたよ」
「わぁ…」