夕暮れの街を眺めながら、わたしは御ノ瀬くんの奏でる心地好いリズムのタイピング音に眠気を誘われていた。
ほとんど毎日、男子か義父の相手をさせられていた。
精神は勿論、肉体的にも限界だった。
ふと、御ノ瀬くんにも警戒心を抱いてしまったわたしは、
自分を恥じた。
(襲うつもりなら、とっくに襲われてるよね……)
「サヤ、教えて欲しいことがある」
「なに?」
「キミに"いたずら"をしてくる男子たちの名前だ」
「!?」
御ノ瀬くんの目は、いつものように真っ直ぐだった。
「わたしやっぱり……。あなたを巻き込みたくない!!」
「大丈夫、その人達にも、その周りの人達にも、迷惑はかからない。勿論サヤや、俺にも」
御ノ瀬くんは笑っていた。
彼があの男子たちに何かするつもりなのは確かだ。
けれど、それがなんなのか。
「……ね、中央学園都市専属デバッガーって…なんなの?」
「学園都市の中の、困ったことを解決する。言ったろ?」
「その困ったことって…もしかして」
「うん。キミの抱えてる問題のこと。
もうかなり前に俺が"報告"していたんだけど、
やっと返事が来た」
「あの男子たちを、止めるの?」
「やってみなくちゃ、分からない。
正しくは、俺がやるわけじゃないからなんとも言えない。かな。
キミはあの件の被害者として、解決を要請できる。
勿論、このまま警察に言うことも、なにもしないこともできる。
どうする?」
分からなかった。
ただ警察に言えば、恥ずかしい噂だけが残り、わたしはあの学校にさらに居づらくなる。
それにそんな大それたことをしてしまえば、
義父がどんな行動に出るか分からない。
わたしは、御ノ瀬くんの目を見て、頷いた。
その日は、夜遅くまで御ノ瀬くんはパソコンに向かっていた。
どんな変化が学校に起きるというのか…。
わたしには見当もつかなかった。