―ザアアァア。
目の前の鉄で出来た扉の横には『佐木』と書かれたプレートがあった。
(ここを訪れる事なんて
一生無いと思ってたのに…)
一度も押さずに暫くインターホンに伸ばしっぱなしだった手を引っ込めて
携帯を開いた。
「…」
機械的なリズムが流れる
この音は
こんなにも酷く
もどかしいものだっただろうか。
"-プルル,プルルルル"
『…只今、電話に出ることが出来ません。ご用件の方は発信音の後に―』
ピー…
「…………
…出ろよ…
俺からの電話は…何コール以内か、忘れたんじゃねぇだろうな…っ」
「"3コール"」
「!」
五月蝿い雨音が一瞬消えた気が、した。
嫌になるほど聞いてきた気だるそうな声色が
酷く懐かしく感じた。
その声は受話器からじゃない
振り向くとすぶ濡れの傘と、コンビニ袋を下げた男がいる。
「……出なかったらそれなりの理由を言って所長を納得させること、出来なかったら…」
「"お前んとこすぐに飛んでってブン殴る"」
続きを即答するとずぶ濡れの傘とコンビニ袋をぶら下げていた男は笑った
「全く…滅茶苦茶ですよね。
…で?俺をブン殴りに来たんですか?」
ああ、
俺の前に
佐木が、 い る。