幸せって
佐木が言った
幸せ?
『俺があなたを好きになって
幸せ』
『俺がお前を好きになった事じゃなくて?』
佐木は笑って頷いた
「俺、ずーっと思い出してたんだけどね
昨日とか今日の残業中とかもだけど」
事が終わって
佐木に後ろから抱き抱えられるようにして二人で湯船に浸かっていると
佐木は俺に触れていた体をそっと離して目を閉じた
「…?」
不思議に思って佐木に向きなおす
「こうして黒川さんと離れてたらね
頭が黒川さんだけになる」
「…何だよ…いきなり」
「今どうしてるかとか、何考えてんだろうとか
怒った顔とか、怒った顔とか」
「怒ってばっかで悪かったな!」
思わずツッコミを入れると佐木は嬉しそうに笑う
「不器用な笑顔とか」
「…」
なんで
「最近はね
色んな黒川さんが、増えてくの。それが嬉しくて」
「こんなに誰かを想った事は無い。
こんなに誰かで満たされた事は無い
離れてても、辛いばっかりじゃないなんて、初めて知った。
だからありがとう、ね。」
なんで
佐木は俺に目を向けると少し驚いて
困ったように笑う
「ほら、また増えた」
佐木の指が
瞼を触った
「何で泣くの?」
「…っうるさい」
何でそういう風に言うんだろう
何でそこまで言ってくれるんだろう
それは全部、俺の言葉なのに。
「とりあえず、上がりましょっか。温まったし」
「…床。洗剤かけとけよ」
「うそ。俺?」