久間紀之助の屋敷はおよそ百坪あり、岡っ引きの喜作を離れに住まわせているほどであった。借家とは言え独り身の久間には些か広すぎる大邸宅だが、使用人を抱えてもゆとりがあるのは商家や町屋などから上納金を納められていたからに他ならない。
「平吉、近頃はどうだい? 商いの方は」
八畳の客間で接待を受けるのは腹を肥らせた四十がらみの男。明らかな年下の久間にも慇懃な態度を崩さない。
「おかげさまで。それもこれも旦那の睨みが効いているからこそでございますよ」
この美濃屋平吉に酌をするお理津の姿を、先程からずっと猥雑な眼差しで見詰めているのは岡っ引きの喜作。無理もなく、お理津はこの部屋でただ一人、衣服を何も着させてもらえずにいた。三人が杯を酌み交わす時はいつもこんな調子のようで、羞じらいながらも多少は慣れた様子を見せる。
「俺としちゃぁ、盗人でも現れてくれなきゃ退屈で仕方ねぇや。辻斬りなんざ相手にしたくもねぇし」
言いながら杯を突き出せば、お理津が膝を詰めて酒を注ぐ。行灯の灯に浮かび上がる背中の反り返りを肴に杯を干す平吉は、先ほどより口元を弛めたままである。
「何を物騒な事をおっしゃいますやら。世の中平和が一番ですから」
「平和になったら俺の役目の意味が無くならぁ」
久間はお理津を抱き寄せながら杯を煽る。
「良いではないですか。それでもこのようにして酒を飲める事に変わりありませんし」
銚子から酒を零さぬようにと気をつけているのに、胸を揉みしだく久間の手は容赦を知らない。
「嫌味かい?」
「いえいえ。ご威光だけで充分かと」
お理津の小振りな乳房は彼の掌に程よく納まる。その彼女の堪える顔が、喜作を更にそそらせた。生唾を呑み込む喜作に久間は声を掛ける。
「物欲しそうにしてるじゃねぇか。おめぇ、ご無沙汰か?」
「へへへ、旦那も意地が悪いですよ。あっしが溜まってんの、判っててそのような」
「まぁ待て。しっかり濡らしてからじゃねぇと、可哀想だろう」
言うなり久間は杯を置き、その手をお理津の股の間に滑らせた。びくり、と、肩を震わせる。
「おい、紫乃、酒持って来い!」
襖に向かって大声で呼ぶと、暫くして音も無くその襖が開いた。新しい銚子を運んで来た奉公人の紫乃は、両手を着いて頭を下げている。
「美濃屋の旦那に酌をしてやりな」
「はい……」