「あの……」
夜の虫たちの合奏に掻き消されてしまいそうなほどの、蚊の鳴くような声。
「男の人って、なんでみんな助平なの?」
「なんでって、そりゃぁそう言うもんだし、仕方ないさ。あたしも馬鹿だからうまく言えないけどね」
紫乃の体型は少々幼くも見える。しかしこの時代、十四と言えば何処かに嫁いでもおかしくない歳頃である。
「お理津さんは男の人に色んな事されて、嫌じゃないの?」
お理津は少し困った顔をした。
「そうさね。あたしが体売るようになったのも、あんたぐらいの歳だったっけね。家も飯も無くて、食うために色んな男に買ってもらってさ。そりゃぁ最初の頃は死にたいくらい嫌だったよ。だけどね、あたしは多分生まれつき助平な女なんだ。だから平気になったね。でもね、分かってんだろうけど、間違ってもあたしみたいになるんじゃないよ。あんたまだ若いんだし、帰る場所もあるんだから」
「でも、もう私、帰れないし、帰りたくない……」
真っ直ぐと見詰める紫乃の目には涙が溜まっている。
「困った娘だねえ」
お理津がそっと頭を撫でてやると、胸に顔を埋めて抱きついてきた。
「あたしみたいな夜鷹なんかにゃぁ、お前さん抱える事なんて出来ないよ。あんた一人で生きて行けるんならともかくさ」
「……一緒にいて」
月が雲から顔を覗かせた。柔らかい月明かりが降り注ぐと、紫乃の結っていない髪に青白い光の輪が浮き上がる。その髪を優しく撫で、そっと抱き締めてやるのであった。
※つづく