河原の道をさ迷う紫乃の姿はまるで幽鬼のようであった。幸いだったのは彼女を最初に見つけたのが、お理津だったという事。
「紫乃!……紫乃ちゃん、だよね?」
茫然自失とはこの事だろうか。目の焦点は合っておらず、お理津は一瞬言葉を失った。
「さ……探したんだよ! 部屋に行ったら、あんた居なくって。一体どこほっつき歩いてたんだよ!」
肩を揺さぶると、紫乃はやっとお理津の目を見た。「おじいちゃんが、死んじゃったの……うふ……はは、あはははっ」
急に笑い出した紫乃にぞっとする。気がふれてしまったのではないか? と。
「し、しっかりおし!」
「私、二人も殺しちゃったぁ。あははっ」
川沿いの先、松並木の向こうが赤いのは、まさか。抱き締めて背中をさする。とにかく、落ち着かせなければならない。
「いいから。与兵衛さんとこに帰ろ」
心が壊れてしまったのではないかと怖くてたまらなかった。土で汚れた長着を脱いで紫乃に羽織らせ、お理津は下衣一枚となって紫乃の手を引く。
やがて与兵衛の住む長屋へ着けば、ぴしゃり、と、傘を貼る音。それに窓から洩れる灯りが、二人を迎えてくれた。
「どうしたんだその格好は!」
「何でもないよ」
二人のただならぬ姿を見て驚き、手を止めた与兵衛。しかしお理津はそれ以上何も言わずに大ダライを用意し、桶を持って部屋を出てゆく。やがて井戸から汲んで来た水でタライを満たし、その場で紫乃を裸にさせた。こびり着いた血で汚れた内股の辺り。
「あんた、やっぱり……」
ぶつけ処のない憤りが彼女を襲う。一人にするんじゃなかったと。思いながら紫乃を腰まで水に浸からせ、膣の中を洗ってやる。水の中で指を差し入れるとまだ残っていた精汁が、タライの水に溶け出した。
「痛いかい?」
首を横にふる。
「んっ……」
奥の方を掻き回すように濯いでやると、吐息を洩らしてお理津の胸に顔を埋める。
「こら。感じてんじゃないよ、この娘は」
体は未だ敏感なままなのか、潤んだ瞳で上目遣い。水が仄かに赤く染まる。何者かに凌辱されたのだろう事は明白。が、お理津は恐くて詳しくは聞けず、溢れた水に濡れる下衣もそのままに、ただそっと抱き締めてやる他なかった。
「私、見てたの。お理津さんが河原で男の人にされてた事」
不意に、胸元に響いた声に目を見開く。