胸板の汗を拭いながら、紫乃は与兵衛の顔を潤んだ瞳で見上げた。
「お、お前……」
「もしお理津さんが居なかったら、私が与兵衛さんの事を好いてしまったかも知れませぬ」
くすり、と、悪戯っぽく含み笑い。
「な、なんて事を言う。俺は……」
なぜ、昨日紫乃まで抱いてしまったのか。自問自答した所で答えなど出ない。所詮自分はただの好き者に過ぎないとしか。ならば尚更、この長屋を離れるのは自分の義にとって好都合なのかも知れない。そう、与兵衛は思うのであった。
「あ、こらっ! そこは自分で……」
タライの水から掬い出された玉鞠が、手拭いと小さな掌に挟まれている。いくら心を平静に保とうにも、意に反して頭をもたげてゆく是非も無し。
「与兵衛様。したい時は私の体も使って下さいまし」
「俺はそんなに助平ではないわ!」
「あら、でも……」
水面から顔を覗かせた亀頭と見詰め合う紫乃は、なおも悪戯っぽい笑みを浮かべたまま。
「これは……お前が触るからだ」
紫乃の顔は紅潮し、その息は荒くなっていた。やがて頭を股の間に沈め、両の掌に包んだ亀頭に口づけをする。
「や、やめなさい」
「私、もう知っちゃったんです。こういう事。それと、私がどうしようもなく淫乱だって事も」
「紫乃……」
困った様子を見せながらも、与兵衛はさせるがまま。葛藤も下半身には勝てず。
「理津さんやお坊さんに弄られてから変なんです。私」
「うっ……」
舌先が先端を擽る。下腹部から上目遣いで見詰めるその目は、どこか醒めているようにも見えた。
「すまぬ」
頭を掴み、押し下げる。
「んぐっ」
棹はひと息、根元まで呑み込まれてしまった。みるみる内に暗くなってゆく土間で、淫靡な水音だけが静かに響く。時に遠く、烏の声。
「だ、出すぞ」
暮れ六つの鐘の音とともに、与兵衛は口の中で果ててしまった。眉間に皺を寄せながらも喉を鳴らし、全てを吸い尽す紫乃。
「す、すまぬ……」
彼女は首を横に振り、与兵衛の体にしがみ付いた。
「私が変なんです。昨日からずっとあそこが疼いてて、きっと私、おかしくなっちゃったんだ」
肝を冷やすような笑みであった。どこか、ごく一部だけが壊れてしまったかのような、遠い眼差し。与兵衛はそんな紫乃を強く抱き締めた。