お理津にしがみ着く腕に力が籠る。顔を胸に埋(うず)めながら。
「お坊さんに初めて色んな事された時私、自分の本性見ちゃったんです。いやらしくて、貞操も無くて、残酷な自分を」
己が内包する闇を知ったが故に餓鬼道。男を知らなかった頃には戻れない。だからこそ、本性のままに生きるお理津だけが、紫乃にとって生涯を共にできる唯一無二の存在。そう、感じていた。
「お理津さんだって、本当は夜鷹になってる自分が嫌いじゃないはず」
「ば、馬鹿な事言うんじゃないよ。あたしは好きでこんな事……」
「好きなくせに。私に気持ちいい事、初めて教えてくれたのだって、姉様じゃない。それに、男の人に色んな事されてる時の姉様、とても幸せそうだもの」
お理津は何も言い返せなかった。自分は淫乱であると、知っていながら認めたくは無かった。
「……本当は、あたしみたいなのが、紫乃ちゃんを拾っちゃいけなかったのかも知れない」
「ううん。親に売られたも同然な私に、行く場所なんて無かった」
お理津にしても似たような境遇である。行く宛てもなく、橋の下で震えていた頃があった。最初は生きるために仕方なく体を売っていた。嫌で嫌で仕方なかった。しかしいつしか心の奥底で、沢山の男に抱かれる事を求めていた。そこには目を背けたくなるような、もう一人の自分。そして初めて紫乃を見た時、まるでそんな自分を見ているような気がした。
「今日のお理津姉様、すごかった。あんなに感じられるなんて、羨ましかった。だから、左平次様が言ってたように、早く姉様のようになりたい」
元はと言えばお理津が夜の闇に引き摺り込んだも同然だった。しかも、抱いてくれない与兵衛に対する欲求不満から、彼女を使ったのだ。一人で下帯を濡らしているのは嫌だったから。そうだ。一番いやらしいのは紫乃ではなく自分だ。
「お理津さん。いえ。お姉様。どうか私を与兵衛さんの代わりには、しないでください。紫乃を、抱いてください」
お理津は、紫乃を強く抱き締めるのであった。