「きっと実家に帰ったんだよ、母さん」
冗談で言ったが、倫子には通じていなかった。
「や、やっぱりお国が違ってもそういうのって共通なのかな?」
ティアはチラッと倫子を見やった。
真剣に自分に訊いているらしかった。
可愛らしく震える彼女の瞳に、ティアは思わず微笑んでしまった。
「うん、共通なのかもね」
「人間関係って世界中どこに行っても難しいんだね…。勉強になるな〜」
倫子は眼鏡に、肩にかからない程度に伸びた黒髪、きちんとした物腰の女の子だとティアは認識していたし、その通りだった。
親戚でも今までほとんど会わなかった。
それがまさかこんな生活が始まってしまうとは、互いに予想外だった。
「……倫子、倫子は私が迷惑じゃないの?」
「?全然!」
これも認識していた。
昔に遊んだ記憶の倫子は、本当に素直で、純真無垢を体現している女の子。
ただ、
彼女の両親からは、何故かティアは気味悪がられていた。
年月を経て分かった理由は、至極簡単なものであった。
ティアの父親と、倫子の父親、この兄弟の仲が昔から悪いから、である。
加えて倫子の母親は「普通」を貫く女性だった。
金髪碧眼の娘など、倫子の母親からすれば「普通」を逸脱した存在なのだった。