「美味しい…」
三十分後、雪美は約束通り恭太のオムライスを食べていた。
「やっぱり体動かした後は腹が減りますね」
「なっ何を…!全く…!…お……おかわり」
「気に入ってくれましたか?オムライス」
「ええ、とても」
「あれ…さっきみたいに笑顔でお願いします」
「何のことか記憶にありません」
恭太は苦笑しながら、オムライスを盛った。
あの笑顔は絶対に忘れたくない。
忘れないでいたい、と思った。
水下雪美は個人的に本当に可愛い、ごく普通の女性であり、教師として大人として、恭太は尊敬できる人だと思った。
また雪美は、守岩恭太を子供扱いはしなかった。こんなに包容力のある、それでいてユーモア溢れる男性なら、最高の家庭が築けるハズだと確信があった。
本当に結婚してしまいたい。そう思っていた。
………生徒でなければ。
「恭太、聞いて…」
食後、唯一雪美が淹れられるコーヒーを手に、二人は向かい合って座っていた。
「もうその口ならさっき閉じたんだけど…?」
「待って……。私たちのことじゃないの。でも、私たちに関わる話…。聞いて…」
「……?」
――私は間違いなく、周りの言う通りの人間でした。
好きな人のために勉強に励み、
周りを無視し、
そしてその好きな人にも…。――
「雅次(マサツグ)さん。私、合格しました…。お願いします、今度こそ…」
鴻上(コウガミ)雅次。
私の合格した大学で教鞭を執られる彼は、若くして既に教授でした。
彼とは親戚とのパーティーで初めてお会いしました。
まだ小さい頃でしたから、何のパーティーだったかとか、どうして雅次さんと仲良くなったかまでは覚えていません。
しかし、その後も個人的に連絡をとる内に、彼に惹かれていくのが分かりました。
彼とは十歳も歳が離れています。
ですから余計、彼が神秘的に見えて、憧れの対象になってしまったのです。
大学で、彼と会う機会は思ったより多くありました。
その度に、彼は優しく私に接してくれました。
「鴻上先生……。いえ、雅次さん」
「ん?」
ある日の放課後、私は、今までうやむやにしてきた問題の答えを聞き出そうと決心しました。