「大丈夫ですか?」
若い男性の声がした。
「え」
奈々は無傷だった。顔を上げると、よく知っている顔と目が合った。
「…赤井さん!」
「海堂くん!?」
二人は同時にお互いの名前を叫び、
「「何でここに!?」」
また同時に言った。その人は海堂亮、奈々のクラスメートだった。亮は、芸能人並みの外見、真面目で優しい性格…などで、クラスでも人気のある男子だ。奈々も何となく亮に惹かれていた。亮は奈々を助け起こし、深々と頭を下げた。
「ごめん。ウチの車のせいで」
奈々は突然の事でドキドキしていた。
「え、あ、さっきの車、海堂くんちの…」
すると、先程衝突しそうになった車…黒いリムジンから運転手が出てきた。
「申し訳ありませんでした」
と、奈々に頭を下げる。
「いえ、そんな…」
言葉が終わらないうちに、今度はスーツ姿のボディーガード(?)が車からぞろぞろ出てきて、奈々に頭を下げた。
「……」
奈々はその光景に言葉をなくした。
(海堂くん…上品な人だなぁとは思ってたけど、実は凄いお金持ち…?)
「怪我がなくて良かった」と言って微笑む亮に、奈々は見とれてしまった。
(やっぱカッコイイ…)
「ところで赤井さん」
「はいっ!?」
「あれ」
奈々は「え?」と亮の指差す方を見た。そこには高級レストランと、その窓に突っ込んで動かないリムジンの姿があった。周りにガラスが飛び散っている。さっきの凄い音は、このせいだろう。亮が困った顔で言った。
「俺の家の車が急にハンドル切ったから…」
奈々の顔からサーッと血の気が引いた。
「それ…あたしを避けようとして!?」
亮が頷く。さっきは気が動転していて気付かなかったが、レストランもリムジンも相当ボロボロだった。
「す…ッすいませんでした!!」
自分が信号無視をしたせいだ…謝ってもどうにもならないが、謝った。
「いいよ。でも…」
亮は困った顔で言う。
「店と車の修理代は赤井さんにも払って貰わなきゃいけないかも知れない」
(修理代!?イヤイヤそんなお金家には…ん?お金?)
「あ゛ぁーーッッ!!バイトの面接ー!!」
すっかり忘れていた。時間はとっくに過ぎていた。
「修理代なんて払えないよぉ…」
奈々は今にも泣きそうだ。
「…じゃぁ」
亮が口を開いた。口調がそれまでとはまるで別人だった。
「俺がいい仕事教えてやるよ」