話を聞き終え、恭太は彼女にかけられる言葉を探したが、見つからなかった。
「内野さんとは後で改めて、結婚式でお会いしました。その時に聞かされました」
「?」
『あの時、正直…水下さんがすごく怖かったです。雅次さんを…私が奪ったも同然だから…』
「そんなことはありません…と、そう言いたかった…。でも、私は幼いままでした。雅次さんを奪ったのは内野さんだと…思わずにはいれなくて…」
「………雪美、つまりその後、雅次さんにその気持ちを諭される言葉を言われたんだろ?」
恭太は、ありきたりで月並みだが、重い言葉を覚悟していた。
雪美は口を開いた。
「俺は教授…先生で、君は生徒だから…。……現実的に見て、君のためにならない…と」
要するに、立場上、交際はできない。
そして、そんな折、内野という助教授が雅次の前に現れ、いつしか雪美は忘れられた存在になった。
「雪美……。雅次さんにそう言われて、納得できたかよ?」
雪美はぽろぽろと涙を溢し、かぶりを振った。
「俺だって同じだからな。現実的に考えようが、俺のためにならなかろうが、雪美を見続けるって決めたから」
「やめて…!!私は教師で、あなたは生徒なんです!!我が儘を言わないで…きゃっ」
恭太は再び雪美を押し倒した。
折り重なったが、恭太は雪美の瞳から、視線は外さない。
「我が儘でもいい。絶対に、雪美を独りになんかしないから」
雪美は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
彼女の声にならない泣き声は、ちょうど赤ん坊が初めて泣いた時のように、何か心地良く響いた。
「…」
「……」
「恭太………大好きです…………大好き……大好き……大好き」
うわ言の様に、彼女の呟く言葉を、一つ一つ恭太は聴いた。
「うん………うん…………。俺も………大好きだ…雪美……」
雪美が泣きつかれて眠るまで、恭太は彼女の横に寄り添っていた。