パラソルの下、雪美は頭からタオルを被って、水平線を眺めていた。
「雪美、焼きそば買ってきた。?」
「ありがとう恭太」
雪美はいつもの仏頂面だが、どこか涼やかだった。
二人はしばらく無言で腹ごしらえをしていたが、雪美は静かに呟いた。
「ありがとう恭太」
「?…礼ならさっき…」
「ううん、海に…私と一緒に来てくれて」
水平線から目をそらさず、雪美は言った。
「私、自分に自信が無くなっていたみたいだった。恭太に出会って、どれだけ卑下していたか…思い知った」
「ホントだよ。雪美は何でもできるのが取り柄だろ。この人が教師でなきゃって感じのさ」
「でも、私は生徒たちからは…」
「雪美は嫌われてなんかない。怖がられてるけど、本当に嫌ってるやつなんていない。嫌ってるのと怖がってるのとは、違うさ」
「怖がられてる……」
「誤解だ…簡単な誤解だよ」
恭太は残りの焼きそばを一気にたいらげた。
「…本当の雪美は怖くない。俺も初めは苦手だった。でも補習を受けてるうちに、この先生は、本気で教えようとしてくれてるって分かって…。そのうち…いつの間にか……好きになってた」
「恭太………」
「色んな事を、簡単にみんな誤解して……。とにかく…雪美は何も悪くない。みんなだって、誤解してるだけなんだ」
恭太は、買ってきたばかりのペットボトルのお茶を飲み、言葉を呑み込んだ。
自らも誤解していた頃があったのだと、言い聞かせた。
簡単な誤解だが、解くのは簡単ではない。
一度『怖い』と刷り込まれた者に、『優しい』とか『面白い』とか、そう印象づけるのは容易ではない。
「恭太。貴方がいてくれるだけで、私はもう十分です…」
「雪美…」
慈愛に満ちた彼女の微笑みは、恭太はたまらなく愛しかった。