「……というわけで、くれぐれも夜遊びなどは控え、夜道は一人でいないこと。必ず友達と帰ること。以上だ。………ああ、そうだ、守岩、守岩恭太」
恭太は急に名前を呼ばれ、びくんと跳ね上がった。
「!?はい…?」
「これから職員室に来なさい」
「は、はい」
「お?恭太なんかやらかしたか?」
「夏休み中はほとんど遊ばなかったからな〜。なにしでかしたんだ〜?」
「し、知らねェよ」
事実だった。
雪美は入院中だし、こんな状況で彼女以外に恭太を急に呼び出す教職員などいない。
「守岩恭太ですけど、なんスか?」
呼び出したのは、教職員ではなかった。
背の高い、高級そうなスーツを着た男性が、職員室に来ていたのだった。
「この方は水下先生のお知り合いで、鴻上雅次教授だ。今回の一件を聞いて、我が校に出向いて下さった」
「出向くだなんて…。君が、守岩恭太くんか。なるほど、いい顔をしてるね」
「!!鴻上雅次…って。おいアンタか!!雪美の気持ちを踏みにじった例の教授ってのは…!!」
「守岩!!やめろ!教授に何を…!」
「いえ、構いません…。恭太くん、とりあえず場所を変えないかい?」
「…………分かりました」
「守岩!!くれぐれも失礼の無いようにな!」
職員室を出、体育館裏に着くや否や、
雅次は恭太を殴った。
「!!っ痛ぅ…てめェ…!!覚悟できてんだろうな…」
「覚悟が無いのは君の方だろう!!」
雅次はきっ、と恭太を睨んだ。
「俺には妻と子供がいる。だが分かってはいても、雪美は特別なんだ!!妹の様な存在なんだ…!!」
「はッ!!自分でフッといてよく言うぜ!!都合良すぎんだろうが!!」
恭太のボディブローが、雅次にクリーンヒットしたが、雅次は歯を食い縛り、耐えた。
「ぐっ…!ああ…俺は都合が良い奴さ…。恭太くん…だから君から彼女を奪う権利は無いと…思ってる…」
「ったり前ェだろ!!!」
雅次の横っ面を、恭太の拳が撃ち抜いた。
雅次は砂利にどおっと倒れ込み、スーツはボロボロに汚れたが、恭太を睨み付ける目はそんなものに対する以上の怒りを秘めていた。
「なら……君以外に…誰が彼女を守る…!誰が彼女の危機に、彼女の孤独に、駆けつけてくれる…!」
「なっ…!!それを辞めたお前に言われる筋合いなんか…!!」
殴りたかったが、雅次の言った事実は、恭太の拳を下げるに十分だった。
――俺以外に…本当の雪美を知ってて、
守ってやれんのは……、いない。
「恭太くん。俺には…雪美以上に守らなきゃいけない人がいる。だが、君は…、彼女に認められた君は、違うんじゃないのかい?」