沙耶はふうっとため息をついて、優に向き直った。
「またお義父さんとお母さんのケンカ?」
優は黙りこくった。
「夫婦ってのは愛し合ってるから、ケンカするだけでね……」
「分かってる…分かってるよ」
彼女の"分かってる"は、本質的には分かっていないということだ。
それを沙耶はきちんと分かっていた。
「ったく…。アンタには……何もなかったんでしょ?」
「………うん」
「なら、良いじゃん」
「………」
「思い出したんでしょ…昔のこと……」
優は沙耶のシャツをぎゅっと握って応えた。
「仕方ないな……」
口癖の様に、沙耶は呟き、優の顔を指でくいっとこちらに向けた。
泣き止まぬ優の顔は、涙で濡れていた。
泣き濡れたつぶらな瞳を映えさせる彼女の睫が、一際長く美しく見えた。
沙耶は視線を彼女の唇に向けて、ゆっくりと自らの唇と重ね合わせた。