「沙耶ちゃん!!!」
優が目を醒ましたのは、学校の保健室だった。
「ああ、篠坂さん。起きた?」
「沙耶ちゃん…!?沙耶ちゃんは…!」
「あなたたち夏風邪を移し合っちゃったんだって?登校途中に具合が悪くなったとかで、遠藤さんがあなたをおんぶしてここまで運んで来てくれたのよ。その後、彼女も具合が悪くなったからって帰っちゃったけど…」
「帰っ…沙耶ちゃん…遠藤さんは帰ったんですか!?」
「え…ええ。確かに元気が無さそうだったから」
(沙耶ちゃん……)
明らかに、"何か"がおかしかった。
疲れていたのか、あるいは本当に風邪だったのか分からないが倒れた優には、"何"がおかしいかまでは思い出せなかった。
しかし、このまま沙耶が自宅に帰って良いはずがなかった。
優は、何故か彼女に学校に来て欲しかった。
「遠藤さんが帰ったのって…」
「ついさっきよ。あなたもここで寝てからそんなに時間は…、あっ!待ちなさい!」
優は走った。
何もかもこのままで良いはずがなかった。
「沙耶ちゃん…!!行かないで…!」
下校時に見える景色がぐんぐん横目に遠ざかり、誰も見えない道の先を見据え、優は走った。
汗が次から次へと流れ、湿気を帯びた独特の暑気が、身体中にまとわりついた。
不思議と涙が溢れたが、関係はなかった。
急な全力疾走で頭はくらくらするし、
わき腹はズキズキ痛む。
沙耶は、自分のマンションに程近い橋の上を歩いていた。
すぐ下を川が流れている。
沙耶はどうやらそれを見下ろしているらしかった。
「沙耶ちゃん…っ…!!!」
「……………」