目的地に辿り着いた頃には、
天は薄暗い闇に染まっていた。
「こちらが…今日泊まって頂くお宿…白麗館(ハクレイカン)です」
真っ白な、レンガのような素材の壁に、提灯がぶら下げてあり、なんとも奇妙だった。
しかし建物は見るからに美しく、壮麗だった。
いつの間にか、花子も提灯を持っていた。
「さ…どうぞ」
花子は入り口まで貴斗を引き連れ、引き返した。
「私には分不相応なお宿ですから、ここでお別れです。また明日…」
「あぁ!?四の五の言ってねーでチェックインから飯の用意まで全部しやがれ!!」
「ぅあ!!は…ひ!」
花子は涙目で白麗館の敷居をまたいだ。
受付からどよめきが起きた。
「おいおい…あの衣…ただの案内人じゃないのか?」
「大丈夫か?あの娘…」
「常識はずれな……」
「…?あ?なんなんだ?こいつらは」
「ひっ…。うぅ…
白麗館は私のような案内人風情が入って良いところじゃないんですよ〜…!」
「あ〜、そ。いいからチェックインしろ。
花子、おめーも部屋に連れて行くからな」
「ひぃ…!!
だめ…だめですよ…!!それだけは…!!
あ…皆島貴斗です。先ほど予約しました、はい」
花子はキーを受けとるやいなや、
貴斗に小突かれ、強制的に案内をさせられた。
エレベーターに乗ると、花子は懇願した。
「お…お願いします…帰してください…。案内人にも一応、寮がありまして…。門限も…。帰らないと罰則が…」
「ふぅん。
花子…おまえは帰りてェのか?」
「も、もちろんです…。
白麗館には、足を踏み入れることも、
…禁止されていて…」
「おまえ自身は、帰りてーのか?って聞いてんだ」
「………わ…私は…その…」
「そんなにその寮が恋しいか?
ダチでも待たせてんのか?」
花子は俯き、小さく首を振った。
「っチ、あの世でまでつまんねーモン見せんじゃねーよ。
花子、俺の部屋に泊まれ。
どーせ明日、天国か地獄行き決めんだろが」
リィン、と鈴の音がしてエレベーターは目的の階に着いた。
「貴斗さん…貴斗さんは、天国でも地獄でも構わないんですか?…生き返りたいとか…現世に未練があるとか…ないんですか?」
貴斗はルームキーを花子の手から取り上げ、彼女の腕を掴み、キーの番号の部屋まで早足で歩いた。
「痛い…!貴斗さん…!!痛いですから…」
貴斗は部屋のドアを開けると、花子を先に入れ、後ろ手で部屋のドアを思い切り閉めた。
「…!!!ひっ…!」
花子は軽々とベッドに押し倒された。
「ぜ…前代未聞ですよっ!!
て…天界の案内人と…死者が……こ…こんな…!!」
「俺ァ天国でも地獄でも構わねェ。
生きてる時の未練なんか、ねェよ」
花子は無理矢理唇を奪われた。
貴斗の思っていたより、彼女の体温は冷たく、ひんやりとしていた。