「私の話…?」
「ああ……生前の名前が花子…だろ。
今は……アレイアだったか…くくッ…」
「わ、笑わないで下さい!
はい…花子…でした。
あまり…
…良い思い出ではありませんが…」
花子は苦笑いしながら、俯いた。
「話したくないなら…
…別に構わねェ」
「いえ、大丈夫です…。
私は…あなたの真逆の人間でした。
誰にでも笑顔で、愛想を振り撒いていました」
「意外だな、ブリッコしてたってわけか?」
花子は自嘲気味に笑った。
「…いえ。……それよりも…もっと、
…酷かったと思います」
―花子…花みたいにぱあっと笑うから…。この娘は…花子……―
「花子ちゃん、一緒に遊ぼう!」
「うん!」
「花子ちゃん、おんなじ部活にしよ!」
「うん!」
私は、一人じゃなんにも決められませんでした。
だから親や周りの人たちに、ついていって…。
それが……一番…楽だなって…。
ずっと、人生から逃げていました。
「花子ちゃん、笑わないでね?私…………くんが好きなの…!
応援…してくれる?」
「うん!」
「花子…好きだ…付き合って欲しい」
「……!……ぅん」
「花子……。応援してくれるって…言ったよね?」
「うん……」
「なんで?ねぇ、なんで、
友達の好きな人奪って……笑ってられんのよ!!
アンタ…狂ってんじゃないの!?」
「………うん…」
「周りなんか気にするな…。
俺だけ見ててくれ…。
好きだよ、花子」
「うん…」
―花子…花子はねぇ、花みたいにぱあっと笑うから…花子っていう名前なの…。
だから…悲しい顔して、泣かないで…―
「…ぅん……」
「花子……お前のこと……もっと…好きになりたい……もっと」
「うん………」
最初で最後の相手が、彼でした…。
「お前…!!その腹…!!
……できた…のか?」
「…うん!!」
「何やってんだよ……!!俺らまだ大学生だぞ!?おい…
おろせよ…絶対おろせよ…!!」
「………………う…ん…」
できませんでした。
お金もありませんでしたし、
両親には、彼と付き合っていることも言っていませんでした。
「それで……自分で死んだのか…」
「………っぅ…ぅう!!」
「お前…自分が何したか分かってんのかよ……」
「………最低ですよ…最悪ですよ…!!
分かってますよ!!」
貴斗は脅そうとも掴みかかろうともせず、静かに言った。
「お前は何にも分かってねーよ」
「…!?」
「両親には…付き合っていたことも言ってなかっただ?
お前の母親の言ってたこと、もう一度思い出せよ!!」
「花子…花みたいにぱあっと笑うから…この娘は…花子……」
「お前……ヘラヘラ笑って死んだのか?
ああ人生楽しかったって、笑って死んだのか?
母親は、笑わないお前のこと、なんとも思ってなかったのか?
昔みたいに笑って欲しかったんじゃないのか?
なんで、せめて親に一言も言わずに死んだんだよ」
花子は、絶句した。
それから子どもの様に「ごめんなさい」「お母さん」と、何度も何度も泣き叫んだ。
貴斗は無言で、雨を見ていた。