「いい仕事…?」
付いて来い、と亮に言われて、ボディーガード達に囲まれ歩くこと数分。絵本で見るような美しい洋館が姿を表した。
「凄ーい!」
「ここ俺ん家」
子供のようにはしゃぐ奈々に、亮のサラッとした一言。
「…な!?」
車から降りた亮は、建物の中に入っていった。奈々も恐る恐る続く。
「お帰りなさいませ」
「あぁ」
「……(凄…)」
お城のような玄関ホールで、メイド服を着た女性が三人、出迎えてくれた。そのうちの一人が、あれっという顔で奈々を見た。
「亮さん、そちらの方は?」
「あぁこいつな。今日からここで住み込みで働くことになった、赤井奈々」
またしてもサラッとした言葉。このメイドさん綺麗な人だなぁ…などと呑気なことを考えていた奈々は固まった。
「…ハァ!?そんなん聞いてな──」「でも金払えねーんだろ?…修理代百万。その分だけ働けばいいだけ」
「ひゃく…!?」
確かにそれは、奈々の家の財産全てをかき集めても足りない額だ。
「どうする?」
亮がニヤリ笑いをしている。
(こいつ…学校の時と全然キャラ違うじゃん…!!)
だが、奈々に選択肢はひとつしかない。
「…よろしくお願いします…」
「何だか複雑な事情みたいね。大丈夫?」
「…はい…」
さっき綺麗だなぁと思ったメイドから、奈々は仕事を教わることになった。そのメイドは恐らく二十代後半で、近くで見ても美人だった。
その人の話によると、奈々は短期間だけのバイト(の予定)のため、メイドの仕事に加え亮専属雑用係をやることになってしまったらしい。
「大変だけど頑張って。短い間だと思うけど宜しくね」
「はい!」
「じゃぁまず…」
その後はメイドの後ろに付いて、家の中を歩き回った。
それが終わって別れた後、そのメイドに名前を聞き忘れたことに奈々は気付いた。
こうして、海堂邸でのメイド生活が始まった。