「話がある。その女を退けろ」
至って冷静に、でも怒りを込めて言い放つ。
須藤は少しキョトンとしたあと、何かを察したようにハッとし、僅かに笑みを浮かべた。
「ごめんねー、さきチャン(女の名前)。男同士の話があるからまた今度しようね」
須藤にそう言われた女は「えー」と納得いかない顔をしたが、服を着直し渋々その場をあとにした。
すれ違う瞬間、物凄い眼で睨まれたのは気のせいだろうか…。
「...で? 話ってなに?」
女の手によってドアが閉められてから、須藤が口を開いた。
俺はグッと拳を握りしめ、答えた。
「まず、殴らせてくれ」
「は?」
バキッ!!
…ミラクルヒット。
俺の固めた拳は須藤の顔面に見事ぶち込まれた。
「…っくぁ…っ…な、何すんだ急に!!」
須藤はよろめき、驚きと少しの怒りが混ざった声で聞く。
さっきまでの余裕ぶった笑みが崩れた。
俺はそんな彼に冷たく言う。
「キスのお返し」
「…キスぅ?」
何の事だか分かってない顔。ふつふつと怒りが沸き上がる。
…もういっぺん殴ってやろうか…。
「お前のバカな行動のおかげで俺は部員に引かれてんだぞ。」
「バカ」を強調して言葉を並べる。
須藤はようやく思い出したのか、「あ〜」と口を開き笑った。
そして、俺の怒りゲージを最大まで上げるには充分な一言。
「あれ、まだ根に持ってんの?めんどい性格してんな翡翠」
…カッチーン。
頭ん中で何かが弾けた。
「…根に持つも何も…
部員全員に持たれてんだよ!!俺がホモだってイメージを!それもお前のせいで!!これじゃ部活まで居づらくなるだろうが!どう責任取ってくれんだこの変態バカ野郎!!」
早口言葉みたいに喋ったせいで息が切れた。
人間嫌いな俺にとって学校は最低な場所で。
でもそんな中でも唯一安らげる時間がある。
それが昼休みと部活だけなんだ。
それさえ壊されたら、腹も立つ。
「…あは、滑舌いいなぁ翡翠。」
「…っお前…!」
これだけ文句言っても余裕たっぷりに笑う須藤に、怒りの熱は冷めるどころかもうオーバーヒート。
須藤のネクタイを手荒にひっ掴み、もう一度殴ろうと拳を振り上げる。
…が、それは須藤の大きな掌へ包み込まれた。
「…!」
須藤は、不気味な笑みを浮かべて。
「いいぜ。責任…
取ってやる。」
そう、言った。