予感めいたものなど一つもなかった。
教室で彼女を初めて見た瞬間でさえ、どこか他人事の様に思い出される。
僕はその日あるトラブルを抱えていて、終日イライラする気持ちを押さえきれなかった。
放課後、友人の誘いも断り足早にバス停に向かう途中、携帯が鳴った。
「よータケト、今晩空いてるか?欠員が出てよー。急な事で困ってるんだ」
僕は何も返さず、通話終了ボタンを押した。
とにかく気分が悪かったのだ。
だからもし、あの場所で、あのタイミングで彼女が僕に声をかけてこなければ、などと思う事がある。
「広山くん、だよね?」
彼女は少しだけ憂いを込めた声で、
「じつは…お願いがあるんだ。ちょっと、変な事かもしれない」