「行くな、行かないでくれ!消えないでく……れ!」
ダリアが男の頭を撫でる。
「消える?アタシはどこにも行かないし、アタシはどこへも消えないわ。ただ、あの庭に植えられている‘ダリア’のその世界へ戻るだけ。アタシの、世界へ、戻るだけ。
あとは何も変わらないのよ、安心して。そう、何も変わらないの……」
「ここに居たらいいじゃないか!ずっとここに!キミの好きなチョコレートだって僕ひとりでは到底食べきれないほどある!
ね?ホラ、ごらん!」
男はチョコレートをカラフルな包みごとダリアの足元を目掛け、投げつける。
ダリアは男を見つめる。
男は懇願を秘めた眼差しを向け、低い声で言った。
「……幸福を教わった僕は、この先どうすればいい」
「そう……ね、――…庭を眺め、朝は水やりをして、昼には土を耕しそしてまた庭を眺める……アタシはアナタに水を与えられ、生きて、見守られ、生きる。
それが、‘ダリア’なの。もうそれ以上は望めない。アタシは、庭で見守られる‘ダリア’なの。
フフッ。楽しかった。
嬉しかった。
…――じゃあね、Bye」
男は渾身で引き留める。
「待ってくれ…――!!」