男はむせび泣く。「僕はねダリア、聞こえるかい?
僕は‘顔で笑って心で泣いて’って言葉をあきれるほど言い聞かせられて育った、羊の群れから初めから離されていた、ただの羊だったんだ。だから僕はまるで何か神聖なるものに導かれるかのごとく、ひたすら草花や木を植えていった。乾いた喉を潤すかのようにね。
ねぇ、知ってるだろ?――僕は友人を作ってはならないって事。でももう、それも破られた。
キミがそれを、破ってくれた。
キミは僕の、友人であり、恋人であり、愛人であり、妻である、そんな存在だ。……分かるかい?分かるよね?キミは僕に、幸福の存在を知らしめた、唯一の、Mariaであり、Satanだ……!」
男は両手を組み、目を瞑る。「……分かっていたよ、分かってた。キミがここから居なくなる時は必ず訪れるって事。分かってた。
でもね、…――ああ!神よ……僕は知りたくはなかった知るべきではなかった。幸福の姿も、その形も、手触りも肌触りも、熱も温度も、知ってしまった。キミを、知ってしまった。キミが、それらを、知らしめた…――神よ、存在(い)るのならどうかこの私を還して下さい。なにも、何も知らないままの‘私の世界’の頃へ…――!」