「仲良くやれよな。それから席はな、丁度東雲の隣が空いているな。この前席替えやったばっかだったもんな、ラッキーじゃねぇかよ」
何がどうラッキーだと言うのか、平然と教師にあるまじき言葉を口にしつつ木更津が指示した場所、つまりは幸人の隣へと早苗がやって来る。
「・・・あ、あの」
「宜しくね、東雲くん」
飽くまでも転校生として振る舞いつつも、一瞬明らかに早苗は喜びと共にホッとしたような笑みを浮かべて彼を見つめる。
「・・・う、うん」
「おーし、お前ら。ホームルームを始めっぞ!!先ずは出席からな!!」
普段は耳に響く不良教師の大声も今の幸人には苦にならず、隣に意識を集中させて終始ドキドキしっ放しであった。
「小林さんって、凄く綺麗だよね」
「何かやってんの?何だか身のこなしとかキチッとしているって言うか・・・」
「花里って、確かあの辺りで一番の進学校じゃない?」
「って言うかさ。超御嬢様学校じゃん、富裕層向けの!!」
やはりと言うべきかなんと言うか、ホームルームが終わってからこっち、転校生自体が珍しい事に加えて美人でもある早苗は休み時間になると男女問わず、皆の質問攻めに逢っていたが、ワイワイと騒ぎ立てる俗物ども(仲の良い筈だったクラスメイト達)を優しく、時には厳しく宥めたり注意したりしながら幸人はこの”幼馴染みの彼女”をそれとなく庇おうと試みる。
「こっちに来たのは両親の都合なんだけど。でも良かったよ、外からだと解らないけれど、ああいう所って大変だよ?凄く殺伐としててドロドロで。本当に勉強したり、礼節を守っている人って半分くらいだもん」
しかし早苗はそんな有象無象(ヤ〇トで言うならケルカピアとか。本当にごめんね、エトセトラの諸君!!星を巡ってくれたまえ)にも優しく丁寧に応対し、お陰で取り敢えず自身の知識欲を満足させた連中は始業のベルと共に去って行った。
(はあ・・・)
「・・・会いたかった」
まだ喧騒が収まり切らない教室の片隅で幸人が一人、息を付くとすぐ隣から熱くて震える声が聞こえ、思わず振り向くと、先程よりもハッキリと感情を表した早苗がジッと彼を見つめていた。