勿論彼自身は嫌な処か寧ろ大歓迎であるが、それでもちょっと投げ遣りでは、と思ってしまう自分がいた。
「あ、あの。それって・・・」
「あ、それからもう部屋には荷物を送っておいたからね、あと合鍵もね」
「あ、ああ。そう・・・」
何事か言い掛けてしかし、幸人は早苗の手際の良さと言うか行動力の凄さに圧倒されてしまうが同時に確かに昔からそうだったな、と思い出してつい笑みが溢れてしまう。
「な、何?私、変なこと言った?」
「ううん。違うよ早苗、そうじゃない」
照れ隠しと嬉しさに、俯き加減でそう応えると、彼女をソッと抱き締めた。
「あ・・・」
「早苗好きだ。大好きだよ、本当に」
「・・・う、うん。そんなの私だって」
「でも、違うんだよ」
「?」
「だって僕の方が、もうちょっと君の事が好きなんだ」
「・・・っ。違うもん!!」
最初はキョトンとしていた少女も直ぐに彼氏の真意を理解して、抱き着き乍らハッキリと応える。
「私の方が、好きなんだもん!!」
「あっははは。そっか!!」
「そうなのっ!!もう、幸人ったら。あはははっ!!」
互いに本当に楽しそうに笑うと再び抱き合い、休み時間終了のチャイムと同時に下へと降りる。
午後の教科は保体と数学Aであり、苦手な人には中々キツいモノだったが二人は最後まで落ち着いてキチンとノートを取り、帰りのホームルーム終了と同時に手を繋いで駆け出した。
その日は勝山夫妻が「遅くなる」と言っていた為に街の案内(と言っても早苗は既に下調べをしていたが)も兼ねて、二人で夕食の買い出しをしてから帰宅したが、早苗本人が言っていた通り(と言っても必要最低限なモノしか持って来なかったが)其処には既に荷物やら何やらが詰め込まれており、同棲の準備は完璧な迄に整えられていた。
(す、凄い、本当だ。本当にやる気だ、この娘は・・・!!)
「さてと。幸人、ごはんつくって上げるね。少し待ってて・・・」