「う、うん・・・?」
「早苗、起きた?」
次に少女が目を覚ますと、少年が側に寄り添って頭を撫でてくれていた。
既に日が傾き初めており、辺りは橙色に染まっている。
「あ、あう。幸人・・・?」
「ごめん。流石に少し、やり過ぎた」
「・・・バカ」
申し訳無さそうに頭を垂れる彼氏に対し、少し頬を膨らませた早苗が手を上げる様な仕種をすると彼氏が思わず目を瞑る。
「・・・今ので、許したげる」
早苗がそう告げて優しくキスをすると、漸く少年がホッとした顔を見せるモノの、今度はそれを見た少女の胸の奥がチクリと痛む。
本当は幸人の、少なくとも幸人だけの責任では無くて、あの瞬間確かに自分も”彼にもっと抱かれたい”、”メチャクチャにして欲しい”と願っていたのであるがしかし、簡単に納得も出来なかったから、ついこんな形となってしまった。
(私って、我が儘だ)
自分でもそれは解ってはいるがしかし、それが一編に直る魔法が使える訳でも無いし、何よりどうすれば良いのかが解らない。
「ねぇ、幸人」
「ん」
「こんな日が、ずっと続けばいいね」
「うん、僕もそう思う」
照れ隠しと罪悪感から早苗がそう言って微笑むと幸人もまた笑ってくれたがそれを見た瞬間、今度はドキッとしてしまうモノの、改めて自分はこんなにも、この少年の事が好きなんだと自覚させられると共に、本当にずっと一緒に居られたらいいと、心の底から少女は思った。
勿論、幸人だってそうだったがしかし、この頃から里には次世代の後継者問題と、それに端を発した人々の確執と言う暗雲が立ち込め始めていたのだ。
当時、集落には今まで通りの伝統や生活を守ろうとする主流派と、外部の有力な企業や金持ちと繋がりを持ち、それらを駆使して”まつろわぬ民”達の実権を握ろうとした新興勢力との間の闘争があった。