「うわああぁぁぁっっ!!?」
戦っていた彼の地面が突然、グニャグニャと歪んで巨大な亀裂が口を開けて少年は為す術無く、其処へと飲み込まれて行った。
「幸人。嫌あぁぁっ、幸人おおぉぉぉっっ!!!」
落下して行くと共に徐々に意識が遠退いて行くが、その中で少女の自分を呼ぶ声だけが、何時までも耳に響いていた。
「う、ううん。さ、早苗。早苗ぇ・・・っ!!」
「・・・きとくん、幸人くん!!」
青年が微睡みの中で、しかし確かに恋人と歩んだ道を確認していると、不意に現の世界からの強く呼ぶ声に揺さ振り起こされるが、彼が目をさますと其処には心配そうな面持ちで顔を覗き込む、初老の夫婦の姿があった。
「はあはあっ。お、おじさん、おばさん。御早う御座います・・・」
「大丈夫?かなり魘されていたみたいだったけれど・・・」
「また、昔の夢をみていたのだね?しかし最初は何でも無かったが・・・。どうやら大怪我を負ってしまった時の事を見てしまった様だね」
そう言って声を掛ける二人に”大丈夫です”と挨拶をしつつ、脂汗に濡れた一人の立派な体格の若者が布団から起き上がって洗面台へと歩いて行くが、彼こそはあの後ここ、築十年の木造六階建てアパートメント”勝山荘”の大家であり、現在の身元引き受け人となっている”勝山 翁斎”とその夫人”勝山 斗和子”に密かに引き取られた”勝山 幸人”、本名”東雲 幸人”であった。
二人は先祖代々、静岡県浜名湖畔東岸一帯を治めていた豪族に使えていた呪い師の末裔であり、その血筋の為だろう、生まれつき高い法力を備えていた事に加え、一族の間で遥かな古より受け継がれて来た奥義極意の全てを修得すると共に、地方に伝わる数々の術式や思想を一つに纏めた極めて強力な秘儀を編み出し、それを皆の為にと密かに用いる生活を送っていたのである。